「Flow Machinesオンラインワークショップ」イベントレポート
9月15日(水)、「Flow Machinesプロジェクト」による一般参加型オンラインワークショップを開催。本ワークショップでは事前に一般の方から「Flow Machines Professional(FM Pro)」を使って制作した楽曲を募集し、ゲストであるDATSのボーカル・作詞・作曲を担当するMONJOE氏による講評が行われた。この記事では当日のイベントの模様をお届けする。
当日はコロナ禍のため、無観客の会場からビデオ会議にて行われた。
会議に参加したのは抽選で選ばれた約20名。事前にAIアシスト楽曲制作ツール「Flow Machines Professional」が限定配布され、各自が思い思いに制作した楽曲(1コーラス)が集まった。一曲一曲を聞いていくとその作風は非常に幅広く、Flow Machinesがクリエイターとのコラボレーションで生み出す音の可能性を実感する結果となった。では、参加者とゲストのやりとりを一部抜粋しご紹介。
自分にできないメロディーってこんなにいっぱいあるんだって
七夕のようなストーリーをイメージしたドラマチックな楽曲「Nostalgic 」を披露したのは現在音楽専門学校2年生のみゃむさん。
MC「こちらはどんなところから思いを巡らせて作った曲なんですか?」
みゃむ「そうですね。まずいろんなジャンルのパレットを触ってみてどういう感じにできるのかを研究して、JPOPが自分に一番あってるかなという印象だったので、それを2種類使ってAメロ・Bメロ・サビに当てはめて作りました。」
MC「FM Proを実際に使ってみてどうでしたか?」
みゃむ「自分では思い浮かばないようなメロディーがいっぱいできたので、結構今後使っていきたいなと、面白いなと思いました。」
MONJOE「ずっと同じコード進行の中でメロディーだったり音圧の起伏で形になっている。それでいて七夕のようなストーリーをイメージしてて、コンセプトを表現できてるっていうのがすごいなと思いました。」
MC「この好みの三つ(Aメロ・Bメロ・サビメロ)は早い段階で見つかったんですか?それとも結構時間かけました?」
みゃむ「30分程度で結構ばばばっと全部一気に書き出して、並んだ状態で一個ずつ聞いて決めた感じです。」
MONJOE「メロディーを探そうとなると何時間でもかけれると思うので、短時間で終わらせるというのも一つ大事なポイントなんじゃないかなと思いました。」
MC「30分でということですが、これを自分でやろうと思ったら大変ですもんね。」
みゃむ「そうですね。あんまり種類いっぱい作れないですし。自分にできないメロディーってこんなにいっぱいあるんだって。」
FM Pro内のJ-POPパレットを使用して主旋律を制作したというみゃむさん。
30分ほどで書き出したメロディーとは思えないほどキャッチーな楽曲に仕上がった。FM Proによるメロディーの提案に刺激を受けながら、自分だけでは思いつくことのなかったような音に触れる経験になったことが非常に興味深い。
たまにいる天才がなんでもアイデアをバンバンくれるイメージ
今回のワークショップ内でも極めて個性の強さを発揮していた楽曲「生ビールとホルモン」を披露したのは大山勇実さん。楽曲制作歴は約10年で普段はフラメンコギタリストをされているという。
MC「今回FM Pro使っていただいていかがでしたか?」
大山「たまにいる天才がなんでもアイデアをバンバンくれるイメージで、衝撃的でしたね」
MONJOE「おしゃれな雰囲気がありつつも、途中からのハッとさせられるようなコードというか展開があったんですけどこれもFMで?」
大山「そうなんですよ。適当に選んでたらこんなコード進行の展開ができるのか!と結構感動してすぐ(MIDIを)貼り付けて」
MONJOE「最初に聞いた時はこの人天才なんじゃないかなと思いました(笑)」
大山「あれはFMさんが全部やってて(笑)」
MC「構造的に面白いのが、メロディー自体はFMが出してくれるじゃないですか。でもそれをすごい!と思って使うにはやはり大山さんで、作ってる制作者なわけじゃないですか。面白いですよね、これって。」
MONJOE「はい。ほんとに扱ってる人のセンスなんだなって思いました。
前にかかっていたコードとFMが新たに提案してくれたコードを張り合わせた時にこれありじゃん!と思わせてくれるというか。コード理論わからないような人たちが『こういうのもありなんじゃないか』とか『意外とつけたらかっこいいんじゃないか』ってただそれだけで突き進んでいけばこの曲のような面白い曲がたくさん出てくるんじゃないかと思いました。」
大山「はい。その通りで、予想外の進行を与えてくれるというか。結構インスピレーションでもいけちゃうというか。」
MC「本当に楽曲製作の幅が広がりそうですね。」
大山「もうまさしくAI様様ですね。」
感覚的にFM Proを操作したことによって予想外のコード進行に出会ったという大山さん。引き込まれるような楽曲の展開が「スーパーのホルモン売り場でループしてかかっている、思わず立ち止まってしまうような曲」というイメージに効果的に働いている点が興味深い。ビギナーのみならずプロのミュージックプレイヤーにとっても新たな刺激を与えてくれるツールになるようだ。
楽器を使わないシンガーにとってもいいツールになる
最後にご紹介するのが現在音楽専門学校1年生のmayoさん。
制作歴はなんと0年!エモーショナルなリリックと印象的な歌声で披露した楽曲「ふいに」は今回FM Proを使って初めて制作した楽曲だという。
MC 「今回これが初めての作曲だったんですか?」
mayo「コードとかメロディーを決めて作るのはほぼ初めてでした。FMで出たメロディーをきいてこういうゆっくりなイメージが浮かんだのでそれにのって作った感じですね。」
MONJOE「ちょっと今あっけに取られちゃってるというか(笑)
FMで作られたメロディーで歌われてるんですか?」
mayo「FMで出たメロディーの一部分があって、ほぼそこを使ってますね」
MONJOE「それを元に自分でインスピレーションを得てちょっとアレンジして、ということですか?」
mayo「はい」
MC「本当にまた新しい使い方ですよね」
MONJOE「楽器を使わないシンガーにとってもいいツールになるってことですよね。例えばギターしかやらない人でもコードとかビートがあればそこでセッションできるというか。プレイヤーたちのいいセッション相手にもなる。そういう使い方もあるなと思いました。
楽曲やトラックのクオリティーがいい悪いとかじゃなくて、自分をプレゼンテーションするというか、そういう使い方もあるんだなと。素晴らしい出会いだったと思います。」
楽曲制作というと一般的には難しい印象もあるが、その核心にあるのは「その人自身」をプレゼンテーションするということだというMONJOE氏。今回mayoさんのようにまだ楽曲制作をしたことがないという人にとってもFM Proがクリエイションの新たなきっかけとなるかもしれない。
FM Proの将来性について
また、今回ご自身もFM Proを使用し事前に楽曲制作を行なっていたMONJOE氏はFM Proの将来的な可能性についても触れた。
MONJOE「僕、結構FMのスタイルパレットが今後どういう増え方をするのかなっていうのが気になってて。アーティスト、例えばKing GnuだったらKing Gnuが使ってるコード進行、メロディーとかのデータが蓄積されてそこから自動的に、みたいなこととか。
そういう固有名詞。アーティスト名だったり作曲者名だったりの単位、もしくはジャンル単位でどんどん増えてゆくとか、いろんな増え方があると思ってて。
それが増えれば増えるほどかなりオリジナリティーのあるAI作曲支援ツールになるんじゃないかなと。」
MC「擬似的にアーティストのスキルだったり音楽性が反映されたAIが先生になってくれるみたいなツールになりますもんね。」
MONJOE「そうですよね。」
MC「僕だったらこうやってコード進めるよ、メロディーつけるよっていう。
そういう未来も見えるような。」
確かに特定のアーティスト、まして自分の好きなアーティストのパレットから楽曲を制作できるというのはクリエイターにとって非常に魅力的だ。
また、それらのパレットからどういったメロディーが生成されるのかを細かく分析していくことによって学びを得る、一種の教育ツールとしても有効なことが期待される。
まとめ
今回ユーザーにFM Proとの作曲を体験してもらうという目的のもと開催された本ワークショップ。感覚的に使用しながら自分の好きなスタイルを見つけていった人、提案されたMIDIデータをドラムサンプラーにあててリズム要素で使用した人、提案されたメロディーをボーカルで歌いチョップする人など様々な使い方が見られた。
参加者にとってAIとの作曲は新たなインスパイヤの形として記憶に残ったことはもちろん、FM Proにとっても人が持つ好奇心から生まれる様々なアイデアに新たな可能性を見出せる時間となったのではないだろうか。
人とAIによるクリエイションの未来が今後どう発展していくのか楽しみだ。
全参加者の楽曲は以下から視聴可能となっているのでぜひチェック!