【イベントレポート】公演「Human Code Ensemble」にて、CSL開発のピアノ作曲ツールPIAの演奏が世界初演

2022年11月3日(祝・木)、4日(金)神奈川県立音楽堂で公演された古楽×メディアアート×身体パフォーマンスによる『Human Code Ensemble』にて、ソニーコンピュータサイエンス研究所パリ音楽チーム研究開発のAIピアノ作曲ツール「PIA」で加筆された「モーツァルト幻想曲ニ短調K.397」が世界初演されました。

Human Code Ensembleとは?

「Human Code Ensemble」は、メディアアーティストの落合陽一さん、古楽器奏者の小川加恵さん、パフォーマンスアーティストのステラークさんによる、異分野のアーティストたちとのコラボレーションによって、ポストコロナ時代に拡張された人間の「身体性」をテーマに近未来の新たな「ヒューマニティ」のかたちを描き出します。

その一端として、ソニーCSLパリで開発されたAIピアノ作曲ツール「PIA」を使ったコラボレーションが実現し、小川加恵さんのピアノ演奏に呼応して「モーツァルト幻想曲ニ短調K.397」の未完部分であるラスト10小節以降がAIによって補筆され、コンサートにて披露されました。

機械学習による作曲の研究は世界に数多く存在しますが、プロの演奏家のステージで実演される機会は未だ少なく、ソニーCSLのPIAがプロ演奏家によるコンサートで披露されるのは世界初の試みとなりました。

PIAでの制作の裏側

PIA(Piano Inpainting Application)は、AIと人間との「対話」によりインタラクティブなピアノ作品の創作をだれもが行う事が可能な研究開発技術です。バロックから印象派以降の膨大な作品データに加え、演奏家による演奏の記録から演奏表現についてのデータをも学習させ、人間性をともなったリアルな作品の再創造を提示します。

PIAでの補筆部分の制作はソニーCSL東京オフィスで行われました。オフィスの音楽スタジオで小川さんのピアノ演奏をMIDIデータで取得し、ラスト10小節分をPIAで書き換えていきました。小川さんの演奏に呼応してPIAが何パターンも違うアレンジを提案し、まさにAI(PIA)と人間との「対話」によるインタラクティブな共創となりました。その中から厳選された作品が当日披露されました。

PIA詳細については下記ウェブサイトからご覧頂けます:https://www.sonycsl.co.jp/paris/13692/

コンサート当日の様子

当日は小川さんによるフォルテピアノのライヴパフォーマンスと、その演奏に合わせて、落合さんの最新テックAIによる映像をリアルタイムで再投影する演目から始まりました。そして4曲目に、”モーツァルト幻想曲ニ短調K.397”が披露されました。小川さんの演奏から引き継いで、舞台上のPCで映像操作をされていた落合さんにスポットライトが当たり、PIAによる演奏が再生されました。

それまでのフォルテピアノでの優雅な演奏とは対照的に、シンセサイザーの音色で軽快な疾走感のある展開を見せました。一聴するとバグのようにも取れる独特で激しいフレーズもありながら、ひとつの楽曲としてのまとまりを見せ、AIらしさが前面に出たフィナーレとなりました。

「幻想曲ニ短調K.397」は、作曲の動機や時期、補筆者も不明と、未完のモーツァルト作品の中でも最も謎に満ちた作品と言われています。三つの構成からなる自由な形式で書かれているのが特徴的です。AIによるフィナーレは、楽曲から汲み取れる世界観を反映させつつ、人間にはないさらなる「自由さ」を見せ、AIと人間との共創の今後の可能性を提示してくれました。

NHK E-テレでの特集決定!

『HUMAN CODE ENSEMBLE』が2023年3月5日にNHKE-テレで特集されます。ぜひご覧下さい。

■NHK E-テレ クラシック音楽館「Human Code Ensemble 新しい音楽の可能性」

放送日時(予定):

2023年3月5日(日)21:00-22:30

番組ホームページ: